金曜の夜、同僚たちとの飲み会から帰ってきた恋人の和也は、少し飲みすぎたのか、少し顔色が悪かった。しかし、その時はいつもの二日酔いだろうと、さほど気に留めていませんでした。悲劇が始まったのは、その数時間後の深夜のことです。突然、寝室からただ事ではない物音が聞こえ、駆けつけると、和也がトイレで激しく嘔吐していました。背中をさすってやることしかできず、嘔吐が落ち着いたかと思うと、今度は「お腹が…」と顔を青くしてトイレにこもります。そこからは、まさに地獄絵図でした。嘔吐と下痢を繰り返し、みるみるうちに衰弱していく和也。熱も上がり始め、体はぐったりとしています。「何か変なものでも食べた?」と聞くと、彼は力なく「飲み会で…カキ酢を食べた…」とつぶやきました。その瞬間、私の頭に「ノロウイルス」という言葉が浮かびました。土曜の朝、私たちは休日診療を行っている内科クリニックに電話をかけ、症状を説明しました。やはりノロウイルスの可能性が高いとのことで、他の患者への感染を防ぐため、裏口から入るよう指示されました。診察の結果、やはり臨床的にノロウイルス感染症と診断され、脱水症状がひどかったため、すぐに点滴が始まりました。私が心配すべきは、和也の看病だけではありませんでした。二次感染の恐怖です。医師から、吐瀉物の処理方法や、徹底した手洗い、塩素系漂白剤での消毒について、詳しく指導を受けました。私は薬局で使い捨ての手袋とマスク、塩素系漂白剤を買い込み、完全防備でトイレや洗面所の掃除を行いました。和也が使ったタオルや食器はすべて分け、こまめに換気もしました。幸い、点滴と自宅での療養で和也の症状は徐々に回復に向かい、私の懸命な感染対策が功を奏したのか、私自身に症状がうつることはありませんでした。しかし、あの週末の緊張感と、恋人が苦しむ姿を目の当たりにした恐怖は、今でも鮮明に覚えています。ノロウイルスは、感染者本人だけでなく、周りの人間をも巻き込む、恐ろしい病気なのだと痛感した出来事でした。
喉の奥の水ぶくれ。ある営業マンの不調の正体
中堅の食品メーカーで営業として働く鈴木さん(38歳)は、多忙な日々を送っていました。連日の外回りに加え、夜は接待の飲み会が続く毎日。睡眠時間も不規則で、疲労はピークに達していました。そんなある日、彼は喉に違和感を覚えました。鏡を見ると、喉の奥、のどちんこの脇あたりに、米粒ほどの大きさの水ぶくれが一つできているのを見つけました。痛みはほとんどなく、少しものが飲み込みにくい程度の感覚でした。「飲みすぎで喉が荒れたかな」。そう軽く考えた鈴木さんは、市販のうがい薬で様子を見ることにしました。しかし、数日経っても水ぶくれは消えず、むしろ少し大きくなっているように感じられました。同じ頃、彼は会食の席で、以前よりもお酒に酔いやすくなっている自分に気づきました。そして、朝の気だるさがなかなか抜けず、日中の集中力も散漫になりがちでした。さすがに心配になった鈴木さんは、会社の近くにある耳鼻咽喉科を受診しました。医師は喉を診察し、「これは粘液嚢胞のようですが、少し色が気になりますね。最近、体調に変化はありませんか?」と尋ねました。鈴木さんが、疲れやすさや飲酒時の変化について話すと、医師は「一度、内科で肝臓の機能も含めて、全身の状態をチェックしてもらった方がいいかもしれません」と勧めました。後日、内科で血液検査を受けた鈴木さんは、衝撃的な事実を知らされます。彼の肝機能を示す数値(AST, ALT, γ-GTP)が、基準値を大幅に超えていたのです。診断は「アルコール性肝障害」。喉の水ぶくれそのものは、直接肝臓と関係のあるものではなかったかもしれませんが、過度の飲酒と疲労が彼の体の免疫力を低下させ、粘膜に異常をきたしやすくしていた可能性は十分に考えられました。そして何より、喉の違和感をきっかけに病院を受診したことが、自覚症状の出にくい「沈黙の臓器」である肝臓の悲鳴に気づく、大きなきっかけとなったのです。この一件以来、鈴木さんは接待の酒量を控え、休肝日を設けるようになりました。喉の小さな水ぶくれは、彼の生活習慣を根本から見直すための、体からの重要なメッセージだったのです。
喉の水ぶくれへの対処法。病院に行く前にできること
喉の奥に水ぶくれを見つけた場合、最終的には専門の医療機関を受診することが最も重要ですが、すぐに病院へ行けない時や、症状が軽い場合に、悪化を防ぎ、不快感を和らげるために家庭でできるセルフケアがあります。ただし、これはあくまで応急処置であり、自己判断で様子を見続けるのは危険であることを念頭に置いてください。まず、喉の症状がある時の基本は「喉を休ませ、刺激を避ける」ことです。大声で話したり、カラオケで歌ったりすることは、喉の粘膜に負担をかけ、炎症を悪化させる原因となります。できるだけ会話を控え、静かに過ごしましょう。タバコの煙や、ホコリっぽい空気も強い刺激となるため、禁煙を心がけ、空気清浄機を使うなどして、環境を整えることも大切です。次に、口腔内を清潔に保つことです。食後は、うがいをして食べかすなどを洗い流しましょう。うがい薬を使うのも良いですが、アルコール成分などが刺激になることもあるため、ぬるま湯や、殺菌作用が穏やかなアズレンスルホン酸ナトリウムなどが配合されたうがい薬を選ぶのがおすすめです。また、喉の乾燥は、粘膜のバリア機能を低下させ、症状を悪化させます。加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、室内の湿度を適切に保ちましょう。こまめに水分を摂ることも、喉を潤すのに役立ちます。ただし、熱すぎる飲み物や、オレンジジュースなどの酸味の強い飲み物は、水ぶくれや炎症を起こした粘膜を刺激するため避け、常温の水や麦茶などを選びましょう。食事が摂れる場合は、おかゆやスープ、ゼリーなど、喉ごしが良く、刺激の少ないものを選び、香辛料の効いた辛いものや、硬い食べ物は控えてください。これらのセルフケアを行っても、症状が改善しない、あるいは悪化する場合、特に高熱や激しい痛みを伴う場合は、躊躇なく耳鼻咽喉科や内科を受診してください。早めの対処が、早期回復への一番の近道です。
リンパの腫れ、何科へ行く?原因別の正しい診療科選び
ある日、首筋や耳の下、脇の下、足の付け根などに、コリコリとしたしこりのようなものがあることに気づく。それが「リンパ節の腫れ」です。リンパ節は、体内に侵入した細菌やウイルスなどと戦う免疫システムの重要な拠点であり、感染症などによって炎症が起こると腫れることがあります。多くの場合は一時的なものですが、中には深刻な病気が隠れている可能性もあるため、自己判断は禁物です。しかし、いざ病院へ行こうにも、「この症状は一体、何科で診てもらえばいいのだろう?」と迷ってしまう方は少なくありません。診療科選びは、リンパ節が腫れている場所や、他にどのような症状があるかによって変わってきます。まず、最も一般的な原因である風邪や扁桃炎などに伴う首や顎の下のリンパ節の腫れで、喉の痛みや発熱がある場合は、「内科」または「耳鼻咽喉科」が第一選択となります。耳鼻咽喉科は、特に首から上の領域の専門家であり、鼻や喉の状態を詳しく診察してくれます。歯茎の腫れや虫歯が原因で顎の下のリンパ節が腫れている場合は、「歯科」や「口腔外科」が適切です。原因となっている歯の治療を行うことで、リンパ節の腫れも改善します。脇の下のリンパ節の腫れで、特に女性の場合は、乳がんの可能性も考慮し、「乳腺外科」を受診するのが安心です。また、リンパ節の腫れが全身の複数箇所で見られる、数週間以上腫れが引かない、あるいは急速に大きくなる、発熱や体重減少、寝汗といった全身症状を伴う場合は、悪性リンパ腫や白血病、膠原病といった血液や免疫系の病気の可能性も考えられます。この場合は、血液やリンパ組織の専門家である「血液内科」や「膠原病・リウマチ内科」が専門となります。どこに行けばよいか全く見当がつかない場合は、まずはかかりつけの内科医に相談し、総合的な視点で診察してもらった上で、必要に応じて適切な専門科を紹介してもらうのが、最も確実で安心な方法と言えるでしょう。