夏場に流行し、発熱と口の中の痛みを引き起こす病気として、手足口病と非常によく似た症状を持つのが「ヘルパンギーナ」です。どちらも同じエンテロウイルス属のウイルスによって引き起こされる、いわゆる夏風邪の代表格であり、時に医師でさえも初期段階での判別が難しいことがあります。しかし、この二つの病気には、発疹の現れる場所や症状の経過に明確な違いがあり、それを知っておくことは適切なケアにつながります。最も大きな違いは、その名の通り、発疹や水疱が現れる範囲です。手足口病は、その名の通り「手」「足」「口」の三か所を中心に発疹が出ます。時にはお尻や膝、肘などに広がることもありますが、基本的にはこれらの部位に症状が集中するのが特徴です。一方、ヘルパンギーナの発疹(水疱性口内炎)は、口の中、特に口蓋垂(のどちんこ)の周辺や、上顎の奥の軟口蓋と呼ばれる部分に限定して現れます。手や足、その他の体の部位に発疹が出ることはありません。したがって、口の中が痛いと訴えていても、手足に発疹がなければヘルパンギーナの可能性が高く、逆に手足に特徴的な発疹が見られれば手足口病と診断されることが多くなります。また、発熱の傾向にも少し違いが見られます。ヘルパンギーナは、突然三十九度から四十度の高熱が出ることが多く、発熱期間は二日から四日程度です。手足口病も発熱を伴いますが、熱の高さはヘルパンギーナほど高くならないことも多く、発熱しないケースも三分の一程度あるとされています。どちらの病気も、口の中の痛みから哺乳不良や食事摂取困難、脱水症状を引き起こすリスクがある点は共通しています。特効薬はなく、治療は解熱剤や痛み止めなどを使った対症療法が中心となります。もし子供が発熱し口の中を痛がっている場合は、これらの違いを念頭に置きつつも自己判断せず、小児科を受診し、医師の正確な診断を仰ぐことが何よりも大切です。