医療現場から見た稀な症例、大人の突発性発疹
私たち臨床医が日々の診療で高熱を訴える大人の患者さんを診る際、突発性発疹を第一に疑うことはほとんどありません。その理由は、この病気が成人に発症する頻度が極めて低いためです。しかし、様々な検査を行っても原因が特定できず、典型的な経過をたどる症例に遭遇した時、私たちはこの稀な疾患の可能性を考慮に入れます。患者さんの多くは、インフルエンザや他のウイルス感染症を疑って来院されます。四十度近い高熱が数日間続き、強い倦怠感や頭痛、リンパ節の腫れを訴えます。私たちはまず、インフルエンザや溶連菌感染症などの迅速検査を行い、同時に血液検査で白血球の数や炎症反応、肝機能などをチェックします。大人の突発性発疹では、白血球数が減少し、肝機能の数値(AST, ALT)が上昇する傾向が見られます。しかし、これらの所見は他のウイルス感染症、特に伝染性単核球症などでも見られるため、この段階で確定診断を下すのは困難です。診断の決め手となるのは、その後の特徴的な経過、すなわち解熱と同時に現れる発疹です。患者さんから「熱が下がったら、今度は体にぶつぶつが出てきた」という報告を受けた時、私たちの頭の中ではじめて突発性発疹の可能性が色濃くなります。最終的な確定診断のためには、血液を用いてウイルスの抗体価を測定します。初感染であればIgM抗体の上昇が、再活性化であればIgG抗体の著しい上昇が見られることで、診断が裏付けられます。治療は対症療法が中心となり、患者さんの苦痛を和らげながら自然に回復するのを待つことになります。大人の突発性発疹は、診断に至るまで時間がかかり、患者さんを不安にさせてしまうことも多い病気ですが、その稀な経過を正しく認識し、適切な検査と説明を行うことが、私たち医師に求められる重要な役割なのです。