今でも思い出すと全身に鳥肌が立つ、あの日の出来事。それは、一人暮らしのアパートで迎えた2度目の夏のことでした。ここ数週間、夜中にキッチンで小さなゴキブリの幼虫を何度か見かけるようになっていました。そのたびに駆除していましたが、どこか胸騒ぎがしていました。「一匹見たら百匹いる」という、あの忌まわしい言葉が頭をよぎっていたのです。ある週末、意を決して私は大掃除をすることにしました。全ての元凶を断ち切ってやろうと、まずはキッチンから始めました。そして、これまで一度も動かしたことのなかった冷蔵庫を、渾身の力で前に引きずり出したのです。その瞬間、私は息を呑みました。冷蔵庫の裏側、特に熱を帯びたモーター部分の周辺には、びっしりと黒い粒が付着していました。それはまるで黒ゴマをぶちまけたかのようで、一瞬何が起きているのか理解できませんでした。そして、その黒い粒の中に、小豆のような黒褐色のカプセルがいくつも産み付けられているのを見つけたとき、私の思考は完全に停止しました。これが、ゴキ-ブリの糞と、卵鞘。つまり、ここが彼らの「巣」なのだと。私が恐怖で固まっていると、壁と冷蔵庫の隙間から、大小様々なサイズのゴキブリが数匹、慌てたように這い出してきました。その光景は、地獄絵図そのものでした。私は悲鳴を上げることもできず、ただ後ずさりすることしかできませんでした。これまで私がキッチンで遭遇していたのは、この巣から偵察に出てきた、ほんの斥候に過ぎなかったのです。この日から、私の家は私にとって安全な場所ではなくなりました。すぐに専門の駆除業者に連絡し、徹底的な駆除作業を依頼しましたが、あの冷蔵庫裏の光景は、私の心に深いトラウマとして今もなお、こびりついています。