あの日、一歳になったばかりの息子の体が、抱っこした瞬間に驚くほど熱くなっていることに気づきました。体温計が示した数字は三十九度五分。それまで大きな病気をしたことがなかった私にとって、その数字は恐怖以外の何物でもありませんでした。すぐに小児科へ駆け込みましたが、先生は喉を診て「風邪かもしれませんね、様子を見ましょう」と言うだけ。解熱剤をもらって帰宅しましたが、夜になっても熱は下がらず、息子はぐったりとして水分を摂るのがやっとの状態でした。二日目も三日目も高熱は続き、私は寝不足と不安で押しつぶされそうでした。そして四日目の朝、嘘のように熱が平熱まで下がりました。ようやく終わった、と胸をなでおろした数時間後のことです。着替えをさせようと服を脱がせると、お腹から背中にかけて、小さな赤いポツポツがびっしりと広がっていたのです。私は再びパニックになり、慌てて皮膚を確認しました。息子は全くお腹を掻く様子もなく、痛がる素振りも見せません。鏡で見ると、顔や耳の後ろにもその発疹は広がっていました。かゆみがないことに違和感を覚えつつ、再び病院へ向かいました。先生は息子の肌を一目見るなり「お母さん、おめでとう。これは突発性発疹ですよ。熱が下がってこれが出たなら、もう大丈夫。ウイルスに勝った証拠です」と笑って言いました。その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れ、診察室で涙が溢れそうになったのを覚えています。先生の説明によれば、この発疹はかゆみが出ないのが特徴で、数日で自然に消えていくとのことでした。しかし、本当の試練はそこからでした。病気自体は峠を越えたはずなのに、息子はそれまで見たことがないほど不機嫌になり、一日中抱っこをせがんで泣き叫びました。これが噂に聞く「不機嫌病」か、と実感しました。かゆみがないから本人は辛くないだろうと思っていたのは大間違いでした。体の中ではまだ戦いの余韻が残っていて、息子なりに精一杯耐えていたのだと思います。この経験を通して学んだのは、子供の病気には「型」があるということ、そして親ができることは、ただ寄り添って見守ることだけだということです。発熱中、もし私が過度に心配して無理やり冷やしたり、発疹を見て「何かのアレルギーだ」と決めつけて変な塗り薬を使ったりしていたら、かえって事態を複雑にしていたかもしれません。かゆみがない発疹は、体からの「もうすぐ治るよ」という手紙のようなものでした。その後、三日ほどで発疹は綺麗に消え、息子は元の笑顔を取り戻しました。あの時の赤いポツポツは、息子の免疫力が一段階強くなった勲章のように、今では大切な思い出の一つになっています。初めての経験で戸惑うお母さんたちに伝えたいのは、かゆみのない発疹が出たときは、焦らずにまずは子供を抱きしめてあげてほしいということです。それは、長い夜が終わった合図なのですから。