私たちが一歩歩くとき、かかとにかかる衝撃は体重の約一点二倍から一点五倍に達すると言われています。走る動作になれば、その衝撃は三倍以上に跳ね上がります。この膨大なエネルギーを分散し、脳や関節を保護するために、かかとには脂肪組織のクッションと、足底筋膜というサスペンションが備わっています。しかし、この高度なメカニズムが破綻したとき、急なかかとの痛みとして症状が現れます。正常な歩行では、かかとが接地し、体重が土踏まずを通り、最後に親指で蹴り出すという一連のローリング動作が行われます。しかし、筋力の低下や足のアーチの崩れがあると、この動作がスムーズに行われず、かかとの一点に過度な衝撃が集中してしまいます。特に、急に歩行量が増えた場合や、体重が増加した場合には、この衝撃吸収システムがキャパシティオーバーを起こし、筋膜の繊維に微細な亀裂が生じます。これが痛みの正体です。また、現代人の歩行環境も大きく影響しています。アスファルトやコンクリートといった硬い地面は、土や芝生に比べて反発力が強く、かかとへのダメージを増幅させます。さらに、家の中でも木材の床が主流となったことで、かかとは二十四時間、衝撃にさらされ続けていると言っても過言ではありません。歩行メカニズムの観点から痛みを予防するには、足裏の筋肉である「内在筋」を活性化させることが重要です。足の指をグー、チョキ、パーと動かすことで、足底のアーチが強化され、かかとへの衝撃をより効率的に分散できるようになります。また、重心を少し前に置くような正しい姿勢を意識するだけでも、かかとへの直接的な負担は変わります。自分の歩行の癖を知り、メカニズムの破綻を修復するための意識を持つこと。それは、かかとの痛みという物理的な不具合を解消するだけでなく、全身のバランスを整え、疲れにくい体を作ることに繋がります。一歩ずつの接地を丁寧に行うことが、かかとの健康を維持するための最も基本的な技術なのです。