三十代の会社員、田中さん(仮名)の事例は、多くの現代人が経験する典型的な経過を示しています。田中さんは、冬に引いた風邪が治った後も、乾いた咳だけが執拗に残ることに悩んでいました。日中はそれほどでもないのですが、夜、布団に入って体が温まるとコンコンと咳が出始め、一度始まると三十分以上も眠れない日々が続きました。当初、田中さんは「風邪が長引いているだけだろう」と考え、会社近くの内科を受診しました。レントゲン検査では肺に異常はなく、数種類の咳止めと抗生物質が処方されましたが、一週間服用しても全く効果がありませんでした。次に、喉に何かひっかかっているような違和感があったため、耳鼻咽喉科を訪れましたが、そこでも喉は綺麗だと言われ、原因は特定できませんでした。咳が出始めてから一ヶ月が経過し、仕事中にも激しく咳き込むようになった田中さんは、上司の勧めでようやく呼吸器内科を受診することにしました。専門医による診察では、田中さんの咳が特定の時間帯に悪化することや、冷たい空気や会話などの刺激で誘発されることが重視されました。そして、専門的な呼吸機能検査の結果、気道が敏感になっていることが判明し、「咳喘息」という診断が下されました。これは、一般的な喘息のようなゼーゼーという音はしませんが、治療法は喘息と同様に吸入ステロイド薬が基本となります。田中さんは、処方された吸入薬を使い始めたその日の夜から、あんなに苦しかった咳が驚くほど軽減するのを実感しました。先生からは、もっと早く来てくれれば、これほど体力を消耗せずに済んだのに、と言われたそうです。田中さんのケースから分かるのは、咳だけという一見軽い症状であっても、それが長引く場合は呼吸器内科という専門的な視点が必要であるという事実です。内科や耳鼻科を回ることは決して無駄ではありませんが、症状の性質を見極めて、呼吸器のプロに早期に相談することが、結果として最短の回復ルートになるということを、田中さんの事例は雄弁に物語っています。
風邪だと思っていた咳が咳喘息と診断されるまでの事例