私が社会人になって初めての夏、仕事の忙しさと連日の猛暑で、体はすっかり疲れ切っていました。そんなある日の朝、目覚めると同時に、喉に焼けるような、経験したことのない激痛を感じました。つばを飲み込むことすらためらわれるほどの痛みで、熱を測ると39度を超えています。これはただの夏風邪ではないと直感し、私は近所の耳鼻咽喉科へ駆け込みました。診察室で口を大きく開けると、医師はペンライトで私の喉の奥を照らしながら、「ああ、これは典型的なヘルパンギーナですね」と告げました。ヘルパンギーナといえば、いわゆる「夏風邪」の代表格で、子供がかかる病気というイメージしかありませんでした。まさかこの歳で自分がなるとは、と驚いている私に、医師は「大人がかかると、あなたのように高熱と強い喉の痛みが出て、重症化しやすいんですよ」と説明してくれました。そして、鏡で喉の奥を見せてもらうと、そこには衝撃的な光景が広がっていました。のどちんこの周りや、上顎の奥のほうに、赤く縁取られた小さな水ぶくれが、まるで夜空の星のように無数にできていたのです。この水ぶくれが破れて口内炎のようになり、激しい痛みを引き起こしているとのことでした。ヘルパンギーナはウイルスが原因のため、特効薬はありません。処方されたのは、解熱鎮痛剤と、喉の炎症を抑えるスプレー、そしてうがい薬だけ。治療の基本は、ひたすら安静にし、水分を摂り、自分の免疫力でウイルスが去るのを待つしかないとのことでした。そこからの数日間は、まさに地獄でした。喉の痛みはピークに達し、食事はもちろん、水さえも喉を通すのが苦行でした。体重はあっという間に数キロ落ち、体力の消耗は激しかったです。プリンやゼリー、アイスクリームなど、喉ごしの良いものを少しずつ流し込むのが精一杯でした。発症から5日ほど経つと、ようやく熱が下がり始め、喉の痛みも少しずつ和らいできました。完全に普通の食事ができるようになったのは、一週間以上経ってからのことです。大人がかかる夏風邪の恐ろしさを、身をもって知った忘れられない体験となりました。