今日は一日、何も手につかなかった。朝、いつも通り髪をセットしようとしたとき、後頭部に指が吸い付くような感覚があった。恐る恐る合わせ鏡で確認すると、そこには十円玉くらいの、ツルツルとした地肌が露出していた。心臓がドクンと大きく跳ねた。何これ、どうして、いつから。自分に問いかけても答えが出るはずもない。ショックを通り越して、冷や汗が出てきた。仕事中も、後ろを歩く人の視線がすべて自分の後頭部に集中しているような気がして、気が気ではなかった。同僚の何気ない会話も耳に入らず、休憩時間にはトイレに駆け込んで何度も何度も髪型を確認した。ネットで「円形脱毛症 病院 行くべき」と検索すると、山のような情報が出てくる。放っておいても治るという言葉に一瞬救われそうになるけれど、次の瞬間には「全頭脱毛」なんて恐ろしい単語が目に飛び込んでくる。自分一人の力では、この不安をコントロールしきれない。正直、皮膚科に行くのは勇気がいる。ハゲた頭をさらけ出すなんて、プライドが許さない。でも、もし明日、もう一箇所増えていたら?もし来月、今の倍の大きさになっていたら?そう想像するだけで、足が震える。この痛みもかゆみもない、静かな侵食が一番怖いのだ。夕食も喉を通らず、ようやく決心がついた。明日の午前中、休みをもらって近所の皮膚科へ行こう。これは恥ずかしいことじゃない。風邪を引いた時に内科に行くのと同じだ。体の中の免疫が少し混乱しているだけなんだ。自分を責めるのはもうやめよう。誰にでも起こりうることなんだと、自分に言い聞かせる。病院へ行けば、少なくとも「今、何が起きているのか」が分かるはずだ。暗闇の中で怯えているよりも、明かりを灯して敵の姿を確認したほうが、ずっとマシだ。先生に全部話して、正しい治療法を教えてもらおう。髪の毛は必ずまた生えてくると信じたい。そのための第一歩として、明日の朝、私は迷わずクリニックの受付に向かうつもりだ。今日はもう、深く考えるのをやめて眠ることにする。明日、一歩踏み出す自分のために。
鏡の前で立ち止まり円形脱毛症の受診を考えた日の日記