尿酸値が高い状態が慢性的に続く高尿酸血症は、しばしば腎臓という沈黙の臓器を静かに、かつ確実に破壊していきます。医療の現場で多くの症例を見てきた立場から言えば、尿酸値の異常は単なる関節痛の前兆ではなく、腎不全への入り口であると捉えるべきです。ここでは、尿酸値が高いまま放置されたことによって腎臓に深刻なダメージを負った、ある五十代男性の事例を紹介します。この男性は、十数年にわたり尿酸値が八・五ミリグラム毎デシリットル前後で推移していましたが、痛風発作を一度も経験したことがなかったため、特別な治療を受けずに過ごしていました。しかし、ある時期から極度の倦怠感と足のむくみを感じて精密検査を受けたところ、腎機能が健常者の半分以下にまで低下していることが判明しました。診断名は痛風腎でした。腎臓は血液をろ過して尿を作る臓器ですが、血液中の尿酸濃度が高すぎると、腎臓の細い管の中に尿酸の結晶が沈着して詰まってしまいます。この結晶が周囲の組織に炎症を引き起こし、腎臓のろ過機能を司るネフロンを少しずつ破壊していくのです。一度破壊されたネフロンは再生することがありません。また、この男性には尿路結石も併発していました。尿酸値が高いと尿が酸性に傾きやすくなり、尿の中で尿酸が結晶化して石になります。これが尿管に詰まれば激痛を伴いますが、恐ろしいのは自覚症状のない小さな結石が腎臓の出口を塞ぎ、尿の流れを阻害して水腎症を引き起こすケースです。このように、痛風発作がないからといって尿酸値を放置することは、自らの腎機能を削り続けていることに他なりません。さらに、腎臓の機能が低下すると尿酸の排出能力もさらに落ちるため、数値がさらに上昇するという悪循環に陥ります。事例の男性は、厳格な食事療法と投薬によってさらなる悪化は防げていますが、失われた腎機能を取り戻すことはできませんでした。尿酸値が高いという指摘を受けたとき、それがたとえ痛みを伴わないものであっても、背後では大切な腎臓が悲鳴を上げている可能性があることを、決して忘れてはならないのです。