ある日突然、私の喉から音が出なくなりました。前日まで少し喉がイガイガするなと感じてはいたのですが、仕事で長時間プレゼンテーションを行った翌朝、目を覚まして家族に「おはよう」と言おうとした瞬間、口からはスカスカという空気の抜ける音しか漏れてこなかったのです。これほどまでに全く声が出ないという経験は人生で初めてのことで、私は激しい動揺に襲われました。痛みはそれほど強くありませんでしたが、電話に出ることもできず、スマートフォンのメモ機能を使って家族と会話をするという異様な日常が始まりました。当初、私はただの風邪の延長だろうと思い、近所の内科を受診しました。先生は私の喉を診て「少し赤いですね」と言い、抗生物質と炎症を抑える薬を処方してくれました。しかし、薬を三日間飲み続けても声は一向に戻りません。それどころか、無理に声を出そうとするたびに喉に負担がかかり、鈍い痛みまで感じるようになってきました。不安が頂点に達した私は、友人から「声の悩みなら耳鼻咽喉科へ行くべきだ」という助言を受け、藁をも掴む思いで専門のクリニックを訪ねました。耳鼻咽喉科の待合室で待っている間も、果たして自分の声は一生このままなのではないかと悪いことばかりを考えていました。名前を呼ばれ、診察室に入ると、医師はすぐに鼻から細いカメラを入れ、私の喉の奥をモニターに映し出しました。そこには、赤く腫れ上がり、ピタリと閉じることができなくなった自分の声帯が映っていました。診断は、声帯炎と酷使による炎症でした。医師からは「内科の薬も間違いではないけれど、声帯の炎症を抑えるには直接的な吸入治療や、何よりも沈黙療法という声を出さない休息が不可欠だ」と説得されました。耳鼻咽喉科での吸入治療を受け、医師の指導通り一週間徹底して筆談で過ごしたところ、少しずつですが元の声が戻ってきました。もしあの時、内科の薬だけで治ると信じて無理に声を出し続けていたら、症状は慢性化し、取り返しのつかないことになっていたかもしれません。診療科選びの大切さを、私は自分の声を失った恐怖とともに身をもって学びました。今では喉に少しでも違和感があれば、迷わず耳鼻咽喉科へ向かうようにしています。専門的な診断と適切な処置がいかに心強いか、声を失ったあの苦い経験が私に教えてくれました。