診察室で毎日多くの子供たちを診ていると、保護者の方が一番心配されるのは、やはり目に見える変化である「発疹」です。特に「熱が下がったのに全身が赤くなった」「でも本人はかゆがっていない」という状況で来院されるケースは非常に多く、その大半はウイルス性の風邪に伴う自然な経過です。小児科医の視点から言えば、かゆみを伴わない発疹の多くは、ウイルスが体内で増殖し、それに対して免疫が反応した結果として生じる「発疹症」というカテゴリーに属します。代表的なものは突発性発疹ですが、それ以外にもエコーウイルスやコクサッキーウイルスといった、いわゆる夏風邪のウイルスも同様の症状を引き起こします。これらは、特定の治療薬があるわけではなく、子供自身の免疫力がウイルスを克服すれば、発疹も自然と消えていくものです。しかし、我々医師が診察の際に注意深くチェックしているのは「かゆみがない」という事実の裏側に隠れた、他のリスクです。例えば、熱が続いている最中に発疹が出て、かゆみがない場合、真っ先に除外しなければならないのが、特定の細菌感染症や、川崎病のような全身の血管に炎症が起きる病気です。川崎病の場合、初期の発疹はかゆみを伴わないことが多く、単なる風邪の発疹と見分けがつきにくいことがあります。そのため、発熱が五日以上続いているか、目の血管が浮き出ていないか、手足がパンパンに腫れていないかといった、発疹以外の「五大症状」を確認することが不可欠です。また、溶連菌感染症も重要です。この場合は喉の赤みが非常に強く、発疹は鳥肌が立ったような細かい赤みになります。かゆみが全くないわけではありませんが、蕁麻疹のような激しさはありません。受診の目安として私が保護者の方に伝えているのは「発疹の見た目」よりも「全身の活気」です。かゆみがなくても、ぐったりして視線が合わない、呼びかけに対する反応が鈍い、あるいは水分を全く受け付けないといった場合は、夜間であってもすぐに受診してください。一方で、熱が下がって本人が不機嫌であっても、おっぱいを飲んだり、おもちゃに興味を示したりする余裕があれば、翌日の診療時間まで待っても大丈夫です。病院に来る際は、ぜひスマートフォンのカメラで、一番赤みが強い時の様子を撮影しておいてください。診察室に来る頃には赤みが引いてしまうことも多いので、写真は非常に貴重な診断材料になります。かゆくない発疹は、体が頑張った証拠であることがほとんどですが、我々専門医はその中にある「一パーセントの例外」を見逃さないために存在しています。不安なときは、遠慮せずに相談に来てください。