四十代の男性Aさんの事例は、良かれと思って続けていた耳かき習慣が、思わぬ事態を招いた典型的なケースです。Aさんは昔から清潔好きで、毎日朝晩の二回、必ず綿棒で耳を掃除することを欠かしませんでした。彼にとって耳かきの頻度が高いことは「身だしなみを整えている」という自負の表れでもありました。しかし、ある時期から右の耳に詰まったような感覚を覚えるようになりました。水が入ったような、あるいは膜が張ったような違和感がありましたが、Aさんは「耳垢が溜まっているのだ」と判断し、さらに念入りに綿棒を奥まで差し込んで掃除をしました。ところが、掃除をすればするほど詰まった感じはひどくなり、ついに右耳の聞こえが極端に悪くなってしまいました。慌てて病院を受診したAさんが目にしたのは、耳鼻科のモニターに映し出された異様な光景でした。外耳道が大きな耳垢の塊で完全に塞がれ、鼓膜が全く見えない状態になっていたのです。これが「耳垢栓塞」と呼ばれる状態です。医師の説明によると、Aさんが毎日熱心に綿棒を使っていたことが原因でした。綿棒は耳垢を絡め取る一方で、その形状ゆえに一部の耳垢を奥へと押し込む力が働きます。毎日の高い頻度で耳かきを繰り返したことで、少しずつ奥へと押しやられた耳垢が、雪だるまのように層を成して固まり、最終的に耳の穴を完全に密閉してしまったのです。処置は、耳垢を柔らかくする薬を数日間点眼した後、医師の手によって慎重に吸い出すというものでした。大きな塊が取れた瞬間、Aさんは「世界が急に明るくなったような感覚」を味わったと言います。この事例から学べる教訓は、耳かきの頻度が多ければ良いというわけではなく、むしろ間違った方法での頻繁なケアが逆効果になるという点です。Aさんは、それ以来、耳かきを月に一度、耳鼻科での定期健診と自宅での軽いケアに切り替えました。自分の耳は自分で掃除しなければならない、という思い込みを捨て、専門家の力を借りることも立派なセルフケアの一環です。耳という繊細な器官に対しては、時には「何もしない」ことが最善のケアになることもあるのだということを、この事例は静かに物語っています。
過度な耳かき頻度が招いた耳垢栓塞の事例と教訓